2017年5月アーカイブ



古きを知り新しきにつなげることを目的に、昨年発足した教育考古学会も6回目の例会を迎えることとなりました。その間、次のような企画を実践し、好評を得てきました。
※ 戦後民間教育の流れから、故依田節夫(自由の森学園中学校校長)の授業論
※ 教育誌『ひと』の果たした役割と意味について元母親編集委員上野初枝さんとご子息上野俊哉さん(和光大教授)に話をうかがう
※ 学校運動としての巨摩中と合唱 埴原美枝子さんのお話
※ 教師からの教育を解き放つ現代っ子論を阿部進さんからうかがう
そして今回は、雑誌『数学教室』および教育誌『ひと』の編集者として遠山啓先生の担当、いわば遠山番として名をはせた友兼清治さんが『遠山啓 行動する数楽者の思想と仕事』(太郎次郎社エディタス)を上梓した記念として、遠山啓の仕事を友兼さんと共に考える会を企画いたしました。
ただ、遠山先生の仕事は、数学研究・水道方式に代表される数学教育・障害児教育・競争原理の批判と教育誌『ひと』の運動など多岐にわたるため、一回だけの会ですべてを理解することは不可能です。この会をきっかけに遠山啓の見ていたものの先の先を考えていきたいと思います。
具体的な授業はもとより、遠山先生の著作の読書会の要望もあり、これから先がとても楽しみです。皆様もぜひ引き続きのご参加をお願いいたします。
代表世話人の一人、木幡も遠山先生より多大な薫陶を受けましたが、今回、初期のひと誌に掲載されたいくつかの文章を資料として用意させていただきました。また、札幌の桑島啓介さんから、メッセージもいただいています。その他の資料と共にお読みいただければ幸いです。添付資料は、下記の通りです。
・授業は楽しいだけでよい 遠山 啓 『数学教室』1977年3月号
・理解と習熟 遠山 啓 『数学教室』1978年7月号
・大鰐「ひと塾」で何かがおこった 木幡 寛『ひと』1979年3月号
・ぼくら若者は、いつも遠山先生と 木幡 寛『ひと別冊 遠山啓追悼特集』1980年2月
・おもしろい授業、おそろしい授業 苑田奈月子『ひと』100号 1981年4月号
・幾何学の指導体系 遠山 啓直筆コピー (1980 明星学園公開研究会算数分科会資料)
※ 上記資料をご希望の方には、郵送いたします。info@jfreinet.comまでご連絡下さい。
2017年5月13日
教育考古学会代表世話人:木幡 寛
阿部 昌浩
高野 裕
◆遠山啓入門_レジメ 友兼清治/5月13日(2017年)
(1)遠山啓の前史
➀―1909年8月21日=朝鮮・仁川に生まれ、すぐに熊本・下益城郡小川町に帰郷
②-熊本・小川町尋常小学校―→東京・千駄ヶ谷尋常小学校―→(開成中)府立第一中学
校(現・日比谷高)
➂-福岡高等学校(現・九大)―→東京帝国大学・数学科―(自主退学)―→東北帝国大
学・数学科
*6年間のまわり道
*文学・哲学・禅宗・天文学・地質学・相対性理論などに傾倒(トルストイ・ドスト
エフスキー・イプセン・ゲーテ・マルクス・レーニン
*数学開眼(カジョリ=方程式論の現代的入門/ワイル=群論と量子力学)
(2)数学研究に没頭
➀-海軍航空隊(霞ヶ浦)・数学教官
➁-1944年=東工大助教授/1945年=自主講義「量子論の数学的基礎」
➂-1949年=学位「代数関数の非アーベル的理論について」/教授に
*ライプニッツ
➃-学内外での民主化運動に参加
(3)数学教育の改革へ
➀-生活単元学習批判
*数学教育協議会の結成(1951年/私憤から公憤へ)
*数理体系の無視/消費生活中心/低い学力
*経験主義批判(抽象ぎらい/系統ぎらい/分析ぎらい)
*ゲシュタルト心理学批判/融合主義批判(インテグレーション)
➁-社会の改造と持続(良い子・飯の食える子)
➂-生活と科学
*分析学習と総合学習(具体→抽象→より高い具体)
➃-一大転機(研究か教育か)
(4)数学教育の現代化と数学文化の啓蒙
➀-水道方式と量の体系の創出
*解毒剤から栄養剤へ
➁-近代化と現代化と超現代化
*児童心理学/科学史・数学史/現代数学
*線形代数・微分積分・記号論理(高校までの目標)
➂-一貫カリキュラム
*量・集合・論理・空間・図形
➃-なぜ数学を学ぶのか
➄-教育政策と学習指導要領
⑥-文化としての数学(数学論の提唱/1962年=『数セミ』創刊)
(5)障害児教育と教育市民運動
➀-障害児における教科教育
*原数学・原教科構想
*原点としての障害児教育
*DoからBeへ(人間開眼)
➁-家永教科書裁判(アカデミックフリーダム)
➂-教育思想としての競争原理批判(内と外の序列主義)
➃-第三の差別(人種・貧富・賢愚)
(6)教育の未来像
➀-「たのしい」と「ゲーム・バイパス」←―数学から数楽へ
➁-整数論(デジタル数学)と微分積分(アナログ数学)
➂-見える学校・見えない学校/劇場型・自動車学校型
➃-術学観の教育論(継承と創造)
(7)遠山啓と「ひと」運動
➀-1973年~『ひと』創刊/「ひと」塾の開始
➁-ユニークな運動論(組織論)/子どもの利益を最優先/母親の参加/勝手連
➂-教育文化創造運動(新しい教育学を創る)
*研究運動/抵抗運動/創造運動/自信回復運動(生きがいの発見)
➃-三つの志向(学校・塾・著作)
➄-遠山啓の決意(ドン・キホーテの覚悟)
(8)遠山啓人間学
➀-三つの構想(人間の全体性の回復・差別への闘い・能力遺伝説への挑戦)
➁-教育と学問・科学・芸術への造詣(知の断絶を超える)/人間と文化への畏敬
➂-本籍=人間/現住所=数学+教育